悩んでいるあなたへ

井原正己

井原 正己さん

1967年生まれ。滋賀県出身。サッカー元日本代表主将、U-23北京五輪日本代表コーチ、現・柏レイソル ヘッドコーチ。大学卒業後、日産自動車サッカー部(現.横浜F・マリノス)に所属、W杯の日本代表選手に選ばれ主将を務める。DFとして日本代表の守備陣を統率した。

ずっと忘れられない言葉をくれた、担任の先生にありがとう。


みんなの担任の先生って、どんな人?
厳しい先生。情熱あふれる先生。宿題がやたらと多い先生。生徒のことをいつも考えてくれている先生。

先生と言っても、いろんな先生がいるよね。実はね、いまあげたこと、ぜんぶ当てはまるのが、僕の小学3年生のときの担任の先生でした。

大人になったいまでも思い出します。学校が終わって、サッカーの練習をして、くたくたになって家に帰ってきて、先生が出した難しい宿題を毎日解くのが、ほんとうにつらかった。それから、授業のときも普段のときも、先生はいつも厳しくて、ちょっとは手を抜いてくれてもいいのに、と本気で思いました。

そんな担任の先生がいる僕の教室で、とても悲しいことが起きてしまいました。
ある子が、いじめにあいました。
その子のことを避けて、話さないようにする雰囲気が教室のなかで広がり、そして僕も、まわりの友だちがやっているから、同じようにしたほうがいいのかなという気持ちで、その子と関わらないようにしてしまった。

するとある日、授業がはじまると、担任の先生が僕たち一人ひとりの目を見て、涙を流しながらこう言いました。
「人の気持ちになって、行動しなさい。自分がやったことを、相手がどう思うかを考えなさい」

きっと先生は、僕たちの様子を感じとり、涙を流していじめのことを話している。僕は知らず知らずのうちに、いじめに加わってしまったことが悲しくて、自分のことが嫌になった。ほかの同級生たちも、たぶん同じ気持ちだったと思う。先生も、とても悲しかったと思う。

でも先生は、だれかを責めたり、怒ったりはしなかった。そのかわり、それから毎日「人の気持ちになって、行動しなさい」と僕たちに言いつづけた。

井原正己

「人の気持ちになって、行動しなさい」と言われて、みんなはどう思いますか? 
この言葉、当りまえのようだけど、けっこう難しい。
人の気持ちを考えようと思っていても、つい相手を傷つけるようなことを言ってしまう。
考えようと思っても、なかなか相手のことはわからない。

でもちょっとずつわかってきたのは、「人の気持ちになる」ということは「人の気持ちをわかろうとする」ことなのかもしれない。
相手のことを全部わからなくたっていい。わかろうと努力することが、大事なんじゃないかって。

それから、中学生、高校生、プロサッカー選手、そしてサッカー監督になったいまでも、あの日の先生の言葉が、ずっと僕の心に残っています。

子どもでも、大人でも、生きているといつだって悩みはある。自分でがんばって、なんとかできる悩みもあるけれど、自分ではどうしようもない悩みもある。みんなにもそういう悩みがあったら、できることは2つあると僕は思う。

ひとつは、悩まない、深く考えないこと。大事なサッカーの試合で負けてしまったとき。何をやってもうまくいかず落ち込んでいるとき。そういうときは、もうこれ以上悪くはならないに決まっていると、僕は割り切るようにしてきた。すると、ずいぶん気持ちが楽になる。

井原正己

そうは言っても、悩みがどうしても頭から離れないときは、やっぱりあります。
そんなときは、思いきってだれかを頼る、悩みを話してみる。僕の場合は、同級生だと恥ずかしくて、弱いところを見せたくないから、サッカーの先輩によく話を聞いてもらっていました。
先輩に話すと、なんだ、自分はひとりじゃないんだと思えて、ちょっと前向きになれる。

みんなのまわりにも、先生や先輩や友だちがいる。ふだんは、悩みを話すことはないかもしれない。でも、みんなのまわりには、みんなのことをわかろうとしてくれる人が、きっといるから。

↑Top