悩んでいるあなたへ

松井秀喜

松井 秀喜さん

1974年生まれ。石川県出身。元ニューヨークヤンキースに所属。MLBにて、ワールドシリーズ優勝1回、ワールドシリーズMVP1回、オールスター2回 等々。プロ野球にて、日本シリーズ優勝3回、日本シリーズMVP 1回、リーグMVP 3回、オールスター9回等々。国民栄誉賞受賞。ニューヨークヤンキースGM特別アドバイザー、Mastui 55 Baseball Foundation代表理事、HEROsアンバサダー。

助けてくれた友だち、監督にありがとう。


「学校生活でいちばん辛かったことは?」と聞かれたら、みんなは何を思い浮かべる?ぼくがまず思い出すのは…みんなは笑っちゃうかもしれないけど、毎日毎日、片道1時間もかけて歩いて登下校していたことだなあ。あれは本当にしんどかった。

もうひとつは、小学1年生のとき、野球チームの監督に言われたことが辛かったなあ。その野球チームは小学3年生以上の子が入れるんだけど、ぼくは体が大きかったから特別に入れてもらえた。

でも1年生だったぼくは、まだ幼すぎて監督が言っていることを理解できなかった。そしたら監督から「やめてくれ」って言われたんだ。それで野球はやめて、柔道をやるようになった。「入っていいよ」と言われたのに、急に「やめてくれ」。あれはショックだった。でも、世の中にはそういう理不尽なことが結構いっぱいあるんだよね。

そういう理不尽なことがあると、みんなはどんな気持ちになる? 嫌な気持ちになったり、むしゃくしゃしたりすると思う。ぼくもそうだった。でも、ぼくは根っからのバカ正直で、嫌なことがあっても、とりあえず受け入れちゃう。気に食わないことを言われても、その通りにやってみる。そしたら意外と、嫌なこととか気に食わないことを、ちょっとずつだけど、理解できるようになる。

松井秀喜

学校生活と同じように、社会に出てからも理不尽なことはある。そういうとき、受け入れて、理解しようとすることでぼくは乗り越えてきた。自分のことは自分がいちばんよく知っていると、いまでも思っている。でもね、これは大人になってから知ったことなんだけど、まわりの人たちは、みんなが思っている以上に、みんなのことを見ている。みんなの力になりたいと思っている。

大人になってアメリカの野球チームに入ったとき、ぼくは最初の1~2か月の成績がよくなかったんだ。不安になったり、自信をなくしたりした。でも、その野球チームの監督がぼくにこんなことを言ってくれたんだ。「いまは成績がよくない。でも、練習や試合に対するきみの姿勢はすばらしい。チームに必要だ。だから絶対に外さない」

結果だけじゃなくて、日々何をしているかを見てくれている人がいる。それを知ってぼくは救われた。そしてそのあと、成績はよくなって、チームを助けることができた。あの監督のことをぼくはいまでも感謝しているんだ。

松井秀喜

もしかしたら、いまこれを読んでいるみんなは、それぞれ勉強とか部活とか、友だちとか同級生のことで悩んでいるかもしれない。理不尽だと思うことがあるかもしれない。そういうことに対して、自分で考えて、なんとかしようとしているかもしれない。自分で乗り越えようとするのは、とても大事なことだと思う。でも試しに、その悩み、誰かに相談してみるのはどうかな?

話しづらいこと、言ったら恥ずかしいことかもしれない。でもね、話しづらいことがあるって、普通のことだと思うんだ。言えなくて辛いことは、みんなが経験していることだと思うんだ。だから、もし悩んでいることがあったら、だれかに相談してみてほしい。

ぼくは小学校1年生のときに野球チームの監督から「やめてくれ」と言われてショックだった。それで一度は野球を嫌いになった。でもそのとき、友だちが助けてくれた。ぼくがもう一度、その野球チームに入れるように友たちががんばってくれたんだ。それでぼくは、ふたたび野球ができるようになった。あれがなければ、プロ野球選手にはなっていなかったかもしれない。

みんなのまわりには、みんなを助けてくれる人がいる。これからの学校生活、そして大人になっても、そのことを覚えていてくれたらうれしい。

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